Our number fourteen ジョーダン・ヘンダーソン
海外サッカー、ましてやプレミアリーグに慣れ親しんでいる方にこの名を知らぬ人はいないでしょう。
リヴァプールの絶対的支柱であり、リヴァプールの情熱の体現者です。
今回はヘンダーソンの魅力、キャプテンとしての影響について語っていきたいと思います。
・ジョーダン・ヘンダーソンとは?
ヘンダーソンはイングランド出身で、現在29歳。イングランドの3部に所属するサンダーランンドAFCにてデビューを果たし、2011年にリヴァプールへと移籍しました。その後9年間リヴァプールでプレーし続け、今ではチームにとってなくてはならないキャプテンとなっています。ポジションはMFで、献身的なボール奪取と正確なパスワーク、相手にボールを奪われないテクニックが特徴的です。中盤にヘンダーソンがいることで攻撃、守備ともに安定性が生まれます。さらに大一番での闘志あふれるプレーや選手への鼓舞などは近年のリヴァプールが持つ一体感につながっていると感じます。
・プレースタイル解説
ヘンダーソンはクロップ時代にはファビーニョの加入までアンカー(6番)としての起用が多かったですが、本人にとっては右のインサイドハーフ(8番)の位置がベストであると考えており、その点はクロップも認めています。
相手にとって彼の脅威は、やはりその献身性。ヘンダーソンがアンカーとしても定着できたのは、ボール奪取技術の高さにあります。もしリヴァプールの試合を見る機会があれば、ぜひディフェンス時のヘンダーソンに注目して欲しいです。
まず、第一にインターセプトを常に狙っていく姿勢。パスを受ける相手選手の死角からプレスをかけ、ファーストタッチが乱れた際にボールを刈り取ります。パスが通った際には相手を振り向かせない位置取りを徹底し、ドリブルに対しても勝負を仕掛けていくことで、相手の速攻を遅らせたり攻撃をスムーズに行わせない守備の原則を守っていることがわかります。攻守の切り替わりの際にはすぐさまカバーリングに入り、その点がディフェンススタッツの高さにも現れていると思います。さらにそれを90分間継続させる運動量の多さもリヴァプールの中盤に欠かせないものであり、それがスタメン出場の多さにもつながっていると言えます。
次に、インサイドハーフとしてプレーした際の積極的な攻撃参加も特徴的です。タッチライン際を駆け上がり、右のサイドをえぐるようにして決定的なクロスやパスを演出する様子が多く見られます。さらに自分の前のスペースが空いた際は積極的にボックス内に走り込み、シュートを狙っていく様子も窺えます。ファビーニョ負傷前に行われた19/20シーズンのプレミア第10節、トッテナム・ホットスパー戦では、サラー、フィルミーノに相手ディフェンスが集中した裏に走り込み、ゴールを決めました。
(ヘンダーソンのゴール→5:32〜)
そして、11月に負傷したファビーニョの代役として、アンカー起用されたヘンダーソンの特筆すべき点だったのは、自陣からのワンタッチでの前線へのロングフィード。これが今季のリヴァプールの攻撃をより活性化させていたように感じます。それまでのヘンダーソンはインサイドハーフを好んでいたことからもあまりロングフィードの印象はなかったです。
しかし、今季のリヴァプールはゲーゲンプレスだけでなくポゼッションにより、ボールを支配する試合も多かったです。そんな中で、彼のロングフィードが前線のサラーやマネに走り出しを要求し、相手の一瞬の隙をついて、リヴァプールの武器である「スピード」を生み出してゴールにつなげていたように感じます。この視野の広さとロングフィードは、中盤の防波堤としてボール奪取に重きを置いているファビーニョにはないヘンダーソンの武器であり、リヴァプールのビルドアップの幅を広げられるものだと感じます。
・致命的な持病
特筆すべきスピードや身体能力はないものの、上記のような中盤のお手本のようなプレーでリヴァプールを支えています。そんなヘンダーソンですが、実は足底筋膜炎という持病を抱えています。
マラソン選手などによく見られる症状らしいのですが、走れば走るほど足の裏に激痛が走るというサッカー選手にとっては致命的ともいえる症状。原因とされるのは足底部のオーバーユース(勤続疲労)によって引き起こされる腱部分の炎症。これによって症状がひどいときには、足を地面につけられない痛みを感じることもあるそうです。しかも悪いことに、明確な治療法が存在せず、痛みを和らげる緩和策として、痛みを感じる箇所の休息やストレッチをするしかないそうです。
常にこの痛みを左足に感じながらピッチで闘っておりそのためにクロップはヘンダーソンを、激しいスプリントが必要とされる8番のインサイドハーフから、より足に負担の少ないセンターライン付近での6番のアンカーへのコンバートを図ったと言われています。ボックス・トゥ・ボックスのタイプであったヘンダーソン自身も、痛みに屈することなくアンカーポジションとしての役割に適応しました。
選手にとって走るという動作は必要不可欠。にもかかわらず、プレーと痛みが紙一重であるというヘンダーソンの思いというものはきっと本人にしかわからないものであると思います。
しかしヘンダーソンはファンにそのような持病を抱えていると感じさせない気迫のこもったプレーをこれまで私たちに見せてくれています。ヘンダーソンこそリヴァプールのマインドであるNever Give Upのマインドを誰よりも体現している選手でしょう。
・成長し続ける14番
今やリヴァプールにおいてヘンダーソンの影響は計り知れません。そんな彼のキャリアは輝かしいものとは呼べなかったものです。2011年にサンダーランドからリヴァプールへと移籍。ダルグリッシュ監督は彼を多く起用しましたが、中盤の選手としてはキックやパス精度以外は凡庸であると批判を浴びせました。その後、2012年に現在のレスターの監督であるブレンダン・ロジャーズが監督に就任。新監督就任に伴い、ヘンダーソンの出場機会は減少します。この時代に戦力外を通告され、移籍を容認されたことは多くの人に知られています。
しかし、かれはリヴァプールに残る道を選びました。元から持っていたキック精度やボールテクニックに加えて、中盤としての強度を上げるため、今の彼の特徴であるボックス・トゥ・ボックス型への転化をはかりました。そしてヘンダーソンの成長を、ロジャーズ監督も再評価し、徐々に出場機会を取り戻していきます。14-15シーズンには副キャプテンに就任し、監督からの信頼も勝ち取ります。この経験がヘンダーソンのプレー、メンタル両面の成長をもたらしたことは間違い無いです。ヘンダーソンにとって幸運だったのはロジャーズ監督が公平に彼の成長を認めて、お互いにリスペクトしあう関係を築けたことでしょう。
そして2015年にレジェンド、スティーブン・ジェラードの退団にともなって15-16シーズンからキャプテンに就任。ユルゲン・クロップ監督の就任はヘンダーソンのさらなる進化、アンカーとしてのコンバートを促し、プレー面でさらに成長。この2人の関係性は非常に良好であり、お互いがお互いを信頼している様子がファンにも伝わってきます。
さらにヘンダーソンの成長は現在でも垣間見ることができます。ファビーニョの台頭はヘンダーソンの守備強度を高めることにつながったと思います。ボール奪取に注目するとヘンダーソンとファビーニョは割と似た対人守備をしているように感じます。
また、今季のロングフィードでいえば、ファンダイクのそれや、両SBからのアーリークロスの影響が少なからずあったのではないでしょうか。
ヘンダーソンの成長はリヴァプールの攻守をより多彩にし、彼のプレーはファンに勇気を与えてくれます。
・『俺達にはヘンドのようなやつがいる』
19-20シーズンの第27節、ウエストハム戦後に、リヴァプール公式のインタビューにて、オックスレイド・チェンバレンはこう語りました。いまや、ヘンダーソンがチーム全体に必要不可欠な存在であるのは間違い無いでしょう。
クロップは言いました。
『キャプテンとしてのヘンダーソンの仕事は、500年のサッカーの歴史において最も困難なものだった。』
リヴァプールの象徴であった前キャプテン、スティーブン・ジェラード。
約10年もの間リヴァプールに忠誠を誓い、強靭なフィジカルと信じられないようなロングシュート、圧倒的なカリスマ性でリヴァプールを救ってきた英雄。
それに対し、一度は戦力外通告を告げられ、プレーも派手というよりは堅実なヘンダーソン。ジェラードの後任という責任、プレッシャーは並大抵のことではないという言葉では表せないものです。
しかし、ヘンダーソンは、ジェラードとは違った形で、常にレッズのキャプテンであり続けました。自分のことだけではなく、常にチーム全体に耳を傾け、リスペクトを持ち続ける。それは選手から監督、アンフィールドの清掃員にいたるまで、リヴァプールというチームに携わる全員にとってのキャプテンであるのです。
先に彼の挫折経験を述べましたが、その経験は彼に、試合に出られない者の気持ちを教えました。リヴァプールの試合で、誰かが得点してゴールパフォーマンスをする時、多くの際にその隣には真っ先に駆け寄ってきて共に喜ぶヘンダーソンがいます。ジェラードのように圧倒的なプレーでチームを引っ張るのでは無く、常にチームの隣にいて選手を、ファンを、鼓舞し続ける。ヘンダーソンはそんなリーダーであると思うのです。
そんな彼に対し、選手の誰もがヘンダーソンを称賛し、認めています。サラーが、チェンバレンが、ファン・ダイクが、アーノルドが、クロップが、ブレンダンが、サウスゲイトが、そしてなによりサポーターが彼の献身を理解しています。
持病を抱えているヘンダーソンがどんな試合であってもプレスをかけ、走り続けている姿、キャプテンがまだ諦めていない姿こそが、リヴァプールに勇気をもたらしていると思います。
だからこそ、リヴァプールは試合終了まで走り続け、どんなチームよりも奇跡と情熱を体現できるチームなのです。
アンフィールドで勝利を信じ続け、痛みを抱えながらも戦い続けた2019年5月7日。
彼とともに戦い続けたチームは3%の奇跡を掴み取り、バルセロナを下しました。
試合終了のホイッスルと共に熱狂したアンフィールドのピッチには「アンフィールドの奇跡」を成し遂げたレッズのキャプテンが倒れ込んでいました。観客席には14年前に「イスタンブールの奇跡」を成し遂げ、OBとして手を組んで勝利を祈った前キャプテンがいました。
スティーブン・ジェラードが素晴らしいキャプテンであったことは疑いのない事実です。どちらが優れているかなど無用の議論でしょう。
しかし、私がファンになったLiverpoolのキャプテンはジェラードでは無くヘンダーソンでした。
私にとってレッズのキャプテンはこれまでも、これからも永遠にジョーダン・ヘンダーソンなのです。
・まとめ
プレー面でもメンタル面でもリヴァプールの支柱であるヘンダーソン。彼がキャプテンであるリヴァプールのファンで良かったとこの記事を書いて心から思います。これからも私たちの14番を信じ、リヴァプールのファンであり続けたいと思います。
それでは!