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医師の方々への感謝とリヴァプールの試合を楽しめる日が来ることを願って

クロップ×哲学 人を動かす3要素

説得力がある人と喋るのって楽しいですよね。逆に自分が上手く相手を説得できなかったりするともどかしい気持ちになりますよね。

 

黄金期と呼ばれた頃のビル・シャンクリーであったり、04-05シーズンミランに対しCL逆転優勝を指揮したラファエル・ベニテスなど数多くの名監督がリヴァプールで采配を振るいました。そして、現在指揮するのはユルゲン・クロップ

これほどリヴァプールというチームにマッチした監督はいないでしょう。

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クロップはモチベーターとして非常に高い能力を持っており、すなわち人をその気にさせるのに非常に長けています。だからこそ選手やファンはこの監督についていこうという気になり、誰しもに愛されるキャラクターとなっているのです。

今回はユルゲン・クロップと哲学を織り交ぜて、人を動かすために重要な役割を持つ3つの要素とクロップの理念やスタイルと併せて紹介していきます!

 

 

 

・クロップ×アリストテレス

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西洋最大の哲学者と呼ばれるアリストテレスですが、彼が提唱したのが弁論術の上で最も重要とされている3つの要素。

・エトス Ethos- 権力

・ロゴス Logos- 論理

・パトス Phatos- 感情

これらを高い水準で組み合わせることで説得力は高まります。どれか一つに秀でているだけでは短期的に納得させることはできても、大多数の人間を長期的に納得させることには不十分です。特にプレミアリーグで言えばインテンシティを重視していた過去に比べ、現代は戦術、選手へのケア、メディア対応など数多くの要因が複雑に絡み合って勝敗に影響を与えています。

監督としてチームのモチベーションを高めるためには説得力がなければ始まりません。

クロップはまさにアリストテレスが理想とした弁論術を実践している選手と言えます。

 

『説得力=エトス×ロゴス×パトス』

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それでは、果たしてユルゲン・クロップはどのような方法でリヴァプールの選手やファン、果てはメディアまでにも好かれる人物となっていったのでしょうか。

 

・エトス Etos

Etosは倫理を意味するEthicsの語源であり、すなわち聞き手が”正しい”と思えるかどうか、という意味合いを持ちます。ではその信頼はどこから生まれるのでしょうか。

 

アリストテレスは、それをAuthority-権力から生まれると提唱しました。

 

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エトスを強調する上でしばしば有効なのは権力を示すことです。この動画で言えば、ミシェル・オバマはその大統領夫人という立場からCelebrity-知名度の点で多くの人々に知られています。どこの誰かもわからない人に比べて、その言葉は人々の関心を集めやすいと言えるでしょう。当たり前ですが、人に一目置かれる人物の言葉に、大衆は耳を傾けます。

 

では、リヴァプール監督就任時のユルゲン・クロップはどうだったか。

 

多くの人に知られているようにクロップと言えば、ドルトムントの監督として09-10と11-12シーズン続けてのリーグ優勝を果たしています。香川やロイス、フンメルスをワールドクラスへと昇華させ、国内最強のバイエルン・ミュンヘンを2季連続で退けた実績は十分であると言えます。リヴァプールの監督就任においても、なるべくしてなった、と言うことができます。

より大きなクラブとなる程、エトスを支える知名度や実績は重要視されることとなります。

 

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当時のクロップは獲得タイトルの少なさから「銀メダリスト」などと揶揄されることもありましたが、リヴァプール監督就任後は、低迷していたチームを長期的な計画に沿って育て上げ、昨季はCL優勝、今季もリーグ優勝確実と圧倒的な成績を残したことからも、もはや多くのファンや選手に評価される、世界トップレベルの監督です。

 

もう一つエトスを構成する要素があります。それは、Social Standing-立場です。

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例えば、ワイドショーで多くの専門家が出演していますが、当然それは彼らの社会的な立場からの意見が必要とされているからです。現在で言えばコロナウイルスの報道において、感染症学教授の立場から、法律家の立場から、経営者の立場から、などその人のキャラクターを構成する様々な立場がエトスを高める要因になります。

 

逆に言えばそのような立場にいる人は信頼されるに足る振る舞いをする必要があります。政治の話になりますが、検事長の立場にある人物が外出制限中に賭け事に興じてしまえば当然その立場への信頼はなくなります。

 

 

ではクロップが監督としての立場で、多くの人々の信頼を勝ち取ったのはなぜか。

まず、選手に関して言えば、何よりも彼が選手第一の姿勢を明確に示し、行動に移してきたからでしょう。しばしばチームの選手を批判した人物には、「おまえは何を言ってるんだ」、とばかりに選手を擁護しますし、クロップは公の場で誰かを貶めるような言動を決してしようとしません。この動画内で比較するのが嫌いと語っているように、常にリスペクトし、守ってくれると感じるからこそ選手からの信頼も厚いのでしょう。チームに不満分子がほぼいないというのもリヴァプールの大きな強みです。

 

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ファンに関しては、常に「リヴァプールというチームの一員である」ことを求めます。しばしば自チームの選手がミスをした際にファンがブーイングを浴びせるのは珍しい光景ではないですが、クロップは決してそれを良しとしません。そのような行動をとった選手には怒りを示しもっと応援しろ、と両手をあげて鼓舞したという逸話があるそうです。このようなクロップの行動がファンのチームとしての一体感を生み出し、『We are Liverpool, This is Anfield』という精神を常に先頭に立って示しています。

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そして監督とメディアの関係性はいつも難しいものがあります。あることないこと書きたて、常にインタビューしてくる記者を鬱陶しく感じ、対立してしまう監督も少なくありません。実際クロップもメディアに関しては複雑な思いを持っているようですが邪険に扱うことはなく、時にはユーモアを混ぜて場を和ませることもあります。リヴァプールに来た際も英語を身につけて、通訳を介さずに記者と会話することでメディアからも愛される監督として知られています。特にゴシップが好きなイングランドではこの点は監督としてのクロップの評価にかなり影響していると思います。

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エトスに関して言えば、権力と社会的立場、この2つが相手を説得する上で信頼を勝ち取る大きな要因になります。

 

・ロゴス Logos

Logosとはすなわち論理を意味し、説得の上での根拠であったり理由が重要視されます。

ロゴスの重要性についてはこの前の記事で説明しているのでよろしければご覧ください。

 

take-2516.hatenablog.com

 

現代において、監督としてロゴスが最も必要なのは戦術面でしょう。

戦術を定着させるには等しく選手に構造を理解させなくてはいけません。

欧州には数多くの戦略家と称される名監督がいます。ペップ(マンチェスター・C)やトーマス・トゥヘル(パリSG)、マッシミアーノ・アッレグリユリアン・ナーゲルスマン(RBライプツィヒ)などはその典型であり、画期的な戦術でチームの信頼を勝ち取っています。

 

ユルゲン・クロップの戦術においては「フットボール戦術批評 ”クロップ魔法陣”の全貌」という本で詳しく説明されているのでおすすめです。

フットボール『戦術』批評

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  • 発売日: 2020/02/06
  • メディア: 雑誌
 

 

代名詞”ゲーゲンプレス”ですが、要は点を取るために、相手にボールを持たせた上で、前線中盤がハードプレスを敷いて、奪ったら瞬時に高速カウンターに繋げるというシチュエーションを理想としています。そのため逆に相手チームからすれば、リヴァプールと対戦するときは、カウンターを食いたくないからボールを持ちたくないという思いが生まれます。

 

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だから近年のリヴァプール対策として、リヴァプールにボールを持たせて守備を固めてこっちがカウンターで攻めるという局面を作り出す方法が普及しました。

 

では、19-20のリーグ戦でリヴァプールは低迷したか。結果ワトフォードに敗れるまで18連勝と、17-18のマンチェスター・Cに並ぶプレミアリーグ最多連勝記録を打ち立てました。それはなぜかというとしばしばサッカーの戦術で重要視される”4局面”のコンプリートを目指したから。今季のリヴァプールが目指したこの戦術についていずれ別の記事で取り上げたいと思います。

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しばしば画期的な戦術を考案してもそれを選手が実践しなくては何の意味もありません。戦術の意味を理解させゲーゲンプレスを基盤にポゼッションも加えたからこそ、今季のリヴァプールは結果を出すことができました。試合で戦術を戦術として定着させた時点で、監督はすでにロゴスを駆使できていると言えます。

逆に戦術面で選手やファンから疑問を呈される監督は、すなわちその戦術を良い理由で説明し定着させることができておらず、ロゴスを活用できていないということです。

 

ロゴスを活用するには理由、根拠を正しく使う必要があります。

 

・パトス Phatos

 

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まさにこの動画こそ、パトスです。これが全てです。

 

ロゴスとエトスがあってもパトスがなくては、説得力は高まりません。

人間の行動は必ずしも合理的ではありません。しばしば感情によって動く動物です。聴衆を感情的に動かせた時点で、あなたの説得は支配的な力を持ちます。スポーツにおいてはなおさらです。戦術は勝つためのツールですが、それだけのチームではファンは応援しません。

支持を得るためにはパトスこそが最も重要なのです。

 

クロップはこのパトスに溢れた人物です。

 

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なによりもリヴァプールは労働者の街です。ファンはなによりも情熱であったり熱狂だったりを重視しています。座って考え込んでいるだけの監督ではファンとも選手との十分な信頼は生まれないでしょう。ユルゲン・クロップという人物は試合の際は常にタッチライン際で立って指揮をします。良いプレーには拍手を送り、ゴールを決めた際はガッツポーズ。

 

感情を前面に出してくれる監督だからこそ、その真剣さだったり本気度が選手やファンに伝わります。クロップが人たらしな理由はなによりもその人柄です。他人がクロップという人を評価する際に、根底にある熱いものを感じ取れるからです。

 

パトスを見せるためには、あなたが持つ思いや感情を表に出し伝える必要があります。

私はそれはエトスよりもロゴスよりも大切だと思います。

 

・まとめ

クロップという監督がなぜこうも人から愛されるのか。それはエトス、ロゴス、パトス全てを駆使して人を揺さぶる力を持っているからだということをまとめました!

クロップが監督であること何よりもリヴァプールの強みだと思います!ありがとうボス!

しばしばビッククラブの監督でもこれら一つに偏ってしまい、総合的に3つの要素を使いこなすことができていないために、不満を買い解任されてしまった例もあると思います。

もしもあなたが人に良く見られたいなら『説得力=エトス×ロゴス×パトス』を忘れないでください。

 

このブログも個人で楽しむよりは発信する、ということを意識していくことを目的にしています。ここがよくない、読む上でこうして欲しいなどの意見があったらコメントして頂けると本当に嬉しいです。それでは!

(5/23 Happy Birthday!Joe Gomez&Pedro Chirivella!)

 

 

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